2010/07/16

三重・奈良・大阪のお雑煮で気になったところ 第3回

大学生の時に履修していた選択科目の「民俗学」の教科書(『民俗学を学ぶ人のために』)には、環境の違いを基準とする分類として、

  1. 山の世界
  2. 海の世界
  3. 里の世界
  4. 都市の世界
の4つを挙げています。

本の中では、環境や生業の違いによって、風習や文化、生活様式などが異なることが、具体例を挙げて説明されています(今回、初めて読みました(汗))。
この違いは、お雑煮にも顕著に現れます。

今回の舞台は、「伊勢志摩」です。
伊勢志摩と言えば、「伊勢神宮」、そして、「海」です。

これまでは、どちらかと言えば、「山」がちなところのお雑煮を取り上げてきましたが、今回は、「伊勢神宮」と「海」にまつわるお雑煮を取り上げます。

6.三重県伊勢市の宮川を境に丸餅に。



より大きな地図で お雑煮マップ 1(三重・奈良・大阪) を表示

江戸時代、伊勢と田丸の間を流れる宮川には、橋が架かっていませんでした。伊勢に行く人たちは、川の中を歩いて、または、かごに乗ったり、人に担いでもらったりして、川を渡ったそうです。
宮川を西に渡ると、そこは、伊勢神宮の神領地です。江戸時代は幕府直轄の天領であり、そこに住む神領民は伊勢神宮の行事に参加することで税(年貢)を免除された、特別な場所でした。

この天領地に入ると、お雑煮に入れるお餅が、角餅から丸餅に変わります。
第1回で取り上げた通り、布地山地から東は角餅の領域なんですが、ここ伊勢志摩は、例外的に丸餅の領域なのです。このことは加太で借りた「三重 味の風土記」にも記載されていますが、宮川を越えていきなり、「お雑煮の中に、丸餅を入れる。」と聞いたときは、感激しました。
しかし、現在は丸餅一色ではなく、僕のお雑煮調査では、角餅と丸餅が半々ぐらいに分かれました。ただ、宮川から西の人は、ほとんどの人が角餅だったので、その違いが際立ちます。

この違いは、宮川の上流のどこまで続くのだろうか?

と疑問に思ったので、上流の方に遠征に行きました。現在の伊勢市の県境まで行って確かめましたが、県境の辺りは、ほとんどの人が角餅を使用し、結局、丸餅の領域は、上記の地図の中、大ざっぱに引いた、紫の線の東側あたりになりました。
現在の伊勢市の領域から考えると、とても限定された領域です。
なぜこんなに狭いのか?と、疑問に思い、いろいろ調べていたら、1つの事実が浮かび上がりました。
それは、江戸時代の神領地の範囲と丸餅の範囲が重なるということです。
鏡餅に見られるように、丸は四角に比べ、「神聖」だと考えられているため、神領地の治世者が丸餅を選んだのでしょうか?

伊勢国絵図で、神領地を確かめる方法
歴史街道GISのページへ行き、「コンテンツのご紹介」にある「古地図から見る」をクリック。
そこで表示される古地図を拡大すると、伊勢市市街の部分にある楕円形が、オレンジ色に塗られているのが分かる(宮川上流の「大倉」(現在の伊勢市大倉町)は、白色。)
オレンジ色のところが神領地だと思われるので、丸餅の範囲と一致する。

お店を覗けば、文化が分かる。

新しい土地に入ると、スーパーの中をグルグル歩き回って、並んでいる商品を眺めています。
今は、日本全国どこでも、同じ商品が並んでいます。しかし、注意して見ると、その土地土地に固有の商品も陳列されていることに気がつきます。

お雑煮に関しても、その土地で良く使う具材が、年末、お店で売り出されます。
僕の故郷の愛知県や、三重県では(岐阜県も?)、年末になると、小松菜に似た「餅菜(正月菜)」という菜っ葉が店頭に並びます。これは、この地方に住む人々が、お雑煮に「餅菜」を入れることが多いからです。

同じように、奈良や大阪では、年末、「雑煮大根」という大根が店頭に並ぶという話をよく聞きました。この雑煮大根は、普通の大根よりも細い大根です。なぜ細い大根が必要なのかというと、この地域では、お雑煮の具である大根や、人参、里芋などを、丸い形のまま入れる人が多いので、太い大根だとお雑煮のお椀がいっぱいになってしまうからです。
※「金時人参」を使うのも、同じ理由?

伊勢のスーパーに売っていた丸餅のパックお餅に関しても、東京や愛知県では、丸餅のパックはほとんど見かけませんが、伊勢のスーパーでは、角餅のパックと丸餅のパックが仲良く、店頭に並んでいました。


7.浦村のアンカケ、石鏡のぜんざい、国崎のアンノリ、神島のカンノモチ



より大きな地図で お雑煮マップ 1(三重・奈良・大阪) を表示

海に生きる人々は、厳しい自然に対峙するため、そして、自然状況に大きく左右される漁という生業のため、共同体(村)の固い結束を保つことが不可欠です。また、漁場争い等を避けるため、近隣の村とは、漁場を厳しく取り決めたりしていたそうです。
鳥羽市に点在する小さな漁村や島を回ってお雑煮を聞いたとき、それほど離れていない村ごとに、村独自のお雑煮があるのには、ビックリしました。

■各町・島の特徴あるお雑煮について

浦村町(四角に囲ってあるところ)
浦村町では、特産物のカキを入れたしょうゆ味のお雑煮の人もいましたが、少し茹でて柔らかくしたお餅にあんこを載せて食べる「アンカケ」と呼ぶものがあります。 おばあさん曰く、昔はお雑煮は作らずに、3が日、アンカケだけを食べていたそうです。

石鏡町(ひし形に囲ってあるところ)
小豆汁の中で丸餅を煮る、ぜんざいを食べます。上から砂糖をかけます(昔は黒砂糖という人も)。かつては3が日、ぜんざいだったようです。

国崎町(三角に囲ってあるところ)
小豆汁の中に焼いた丸餅を入れる、ぜんざいを食べます。石鏡町は餅を煮ますが、ここは焼き餅。こしあんで作るものを「アンノリ」と呼ぶ人も2名いました。

相差町や畔蛸町など(地図下部にある紫線の下)
丸餅を煮る、しょうゆ味のお雑煮。国崎町とは数㎞しか離れていないのに、ぜんざいをお雑煮の代わりに食べるという人は一人もいませんでした。 本当に不思議です。このしょうゆ味のお雑煮は、志摩地方で最も良く聞いたお雑煮。ここ相差町は鳥羽市ですが、文化的には志摩市に含まれていると考えていいのでしょうか?

神島(地図右上部の紫線で囲った隅にある島)
三重のお雑煮についての文献を調べると、頻繁に登場するのが「神島のカンノモチ」。それを確かめるため、フェリーに乗って、伊勢湾口の真ん中にぽつんと浮かぶ「神島」に行ってきました。 到着後、2人目に聞いたおばあさんが、「カンノモチ」のことを話し始めました。「カンノモチ」とは、ぜんざいのこと(「三重 味の風土記」には、老人が「ゼンザイじゃない、カンノモチじゃ」と叱った話が紹介されています)。元旦の、日の出前から始まる伝統行事「ゲーター祭」を戦に見立てて、「腹が減っては戦はできぬ。」と、カンノモチを腹の中にかき込んで出陣(?)していくそうです。

菅島(逆三角形で囲ってある島)
菅島では、「カンノモチ」と呼ぶ人は1人もいませんでしが、ここでも、「ぜんざい」を食べます。ただ、「ぜんざい」のみの人はいなくて、元旦だけ「ぜんざい」で、2日、3日はしょうゆ味のお雑煮を食べる人が多かったです。

三重県では、一年中「注連飾り」を飾る!?

三重県では、伊勢志摩を中心に、1年中「注連飾り」を飾っている家をよく見かけます。これは、蘇民将来の伝説にあやかった、この地方独特の風習です(歴史の情報蔵:今にいきづく呪符「蘇民将来子孫」)。

注連縄を作っているところ関宿の街道に並ぶ町家に飾られていた「笑門」の注連飾り神島の「大漁満足」の注連飾り七五三飾り
左上:注連飾りを手作業で作っているところ。宮川の上流は、伊勢風の注連飾りの一大産地。全国から注文が来るらしい。
右上:三重県で最もよく見かける「笑門」の注連飾り。蘇民将来之家門→将門→笑門。笑う門には福来たる。伊勢から遠く離れた、東海道の関宿でも多くの家が注連飾りを飾っていた。
左下:神島の漁業組合の建物に飾ってあった「大漁満足」の注連飾り。
右下:神島や、石鏡町、国崎町などの漁村でよく見かけた七五三飾り(しめかざり)。これは5束だが、7束のものも。

8.志摩のアンピン



より大きな地図で お雑煮マップ 1(三重・奈良・大阪) を表示

ここ志摩の鵜方には(上記の地図の南側)、「アンピン」と呼ぶお餅があると、「三重 味の風土記」に記載されていました。今も残っているのかと、鵜方にやってくると、やっぱり残っていました。

この「アンピン」は、先ほど取り上げた浦村の「アンカケ」と同じものです。
ゆでて柔らかくしたお餅に、あんこをかけたものです。僕が聞いた人の中に、お雑煮は食べずに「アンピン」だけという人はいませんでしたが、昔は「アンピン」だけだったという人が何人かいました。

おじいさんが、子どもの時に「アンピン」を食べるのを心待ちにしていたことを話してくれたことが思い浮かびます。お年を召した方ほど、お餅やお雑煮について熱く語ってくれる気がします。
お年寄りの方にお餅が好きな人が多いのは、「味は記憶に宿る」からだと思います。
お餅がとても貴重だった時代、それを食べるのを心待ちにしていた記憶が、その味を心に刻みこみます。

海と「あんこ」には深い関係がありそうです。

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これで、僕が前回の「お雑煮をめぐる冒険」で気になったことを書くのは、おしまいにします。

他にも、「三重県一身田寺内町や、城下町のしょうゆ味のお雑煮」や、「大阪の都心に伝わる、元旦しょうゆ、2日みそのお雑煮」、「鳥羽の角餅」などなど気になるお雑煮はありますが、実数が少ないのもあり、今のところ、頭の片隅に留めておくだけにします。

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4 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

どもども。
この前はどうもありがとう。
おかげさまでいろいろ動きだしたよ!

海とあんこの関係、個人的にかなり気になります。
あんこ学も面白そうだね。
また話そう!
toge

Masato.M さんのコメント...

> toge さん

コメント、ありがとうございます。
ガタンゴトンと動く音が聞こえます。
のめり込みすぎず(?)、頑張ってください!

海と「あんこ」は、ほんと気になります。
「あんこ」は、旅の中で追っていこうと思っています。
また話しましょう!

狛 さんのコメント...

こう暑い日が続くとお雑煮の事を考えただけで体温上がりません?今の季節は、雪〇だいふくの方がいいな。

Masato.M さんのコメント...

> 狛 さん

ほんと毎日暑いですね-。家の中にいても、汗がダラダラ出てきます。
僕も雪見だいふく大好きです。
あっ、雪見だいふく入りのお雑煮。新しい!いいかも!?

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